長野県飯田市街から山道を右へ左へ走ること1時間。
ついに「いろりの里 大平宿」に到着。
生活原体験とはなんなのか。
後編。
ボロい歴史ある民家
公社の人の「見るとびっくりしますよ……」との事前の言葉通りに、まずその圧倒的な山奥ぶり。
そして最初に紹介された民家がこれ。
外観はそれなりにまとも……なのですが、
屋内は……最初は少しカルチャーショックを受けましたが、まぁすぐに慣れました。
公社の人に民家や周辺施設を一通り案内してもらい、今晩宿泊の「下紙屋」へ。
この下紙屋。明治中期に建築されたものの平成12年に火災により全焼。その後再建されたもので大平宿の民家の中では最も近代的(※1)。
(※1)最も近代的……水洗トイレが設置されているのが最大の近代建築
荷物を空き部屋にまとめ、まず最初にすることは「掃除」
宿泊者が民家に宿泊し生活することで建物の寿命が延びる。昔の民家はそのような造りになっているとのこと。
そして薪を運び入れ、竈と囲炉裏で火おこし。当然ガスなどという文明の利器は存在しません。
そこは教科専門家の集まり。薪はあっという間に燃え上がります。
屋外のキャンプで薪を燃やしたことはあれど、屋内で薪を燃やす経験はなかなかありません。もちろん屋内では自分も初めてでした。
そのためか……。
あっという間に煙が室内に充満し、最初は目を開けていると涙が出てくるような有様。
これは思ったほど楽な生活じゃないぞ。
我々が準備に取りかかったのを見計らってか、公社の人は「では生還を祈ります」と言い残し、山を下って(※2)行きました。
(※2)山を下って……大抵は緊急時対応のため、別棟で宿泊してくれます。
長い夜
麓で大量に買い込んだ目的不明の食材も美味い鍋として生まれ変わる。
そして囲炉裏の炎を囲んでの食事に会話も弾みます。
おそらく当時は今のような核家族ではなく、このような大家族ではなかっただろうか。
ガスもなく食材も手に入りにくい生活はさぞかし不便だったに違いない。しかし今では忘れてしまった暖かみがここにはあったような気がするのです。
夜も深まってきた頃。
外は雪が降るほど(※3)急激に気温が低下してきた。
(※3)雪が降るほど……翌日のニュースによれば各地で初雪を観測した日。
寝袋にくるまって囲炉裏にすぐ傍に陣取るものの、ウトウトしかけると囲炉裏の火が落ち、あまりの寒さに目が覚めてしまう。
慌てて薪を追加し炎が復活したところでまた寝るという繰り返し。
とにかく寒くて寒くてたまらない。
明け方ぐらいに少し眠れたものの、ほとんど眠れないに等しい状態。
これ、1泊だからまだ良かったものの、ここで越冬しろと言われれば間違いなく凍死できるレベル。
そして夜が明けた
長い夜がようやく明けました。
違う部屋で寝袋にくるまっていた先生からは「煙だらけの囲炉裏のそばでよく寝られたな」と驚かれました。
どうやら囲炉裏の火が落ちてしまい周囲は煙が充満。床付近はかろうじて煙がなく、そこでかろうじて生息していたらしい。
再び囲炉裏と竈の火を興し、朝食の準備。
慣れない床の上での寝袋睡眠と寝不足。体がだるいことこの上ない。
最後に後片付けと掃除を行い午前中には大平宿を出発。山道を下り無事帰還を果たすことができました。
"大平宿最後の日"
「生活原体験」というネーミングから、もっと原始っぽい生活を想像していましたが、やっていることはキャンプと変わりません。
キャンプファイヤーが囲炉裏になり、テントが民家になったぐらいです。
今回は食料を市街から調達してくれましたが、大人数で研修を行う時には指定のメニューを大平宿まで持ってきてくれます。
薪もすでにカットされたものを買うので、薪に火をつけ料理を作る程度。
確かに滅多にない経験ではありましたが新鮮かと言われれば、自分にとってはそうでもありません(※4)でした。
(※4)そうでもありません……薪で火興し(実家)、寝袋で就寝(会社w)など一通り経験しているので。
しかし腹が減ればコンビニや外食で空腹を満たし、ネットやテレビ生活に慣れている人間にとっては驚きの体験に違いありません。
囲炉裏を囲んで食べ、飲み、歌い、語り合う……時間に縛られない、ただのんびり流れる時間に身を委ねる。
そう簡単に味わえる体験ではありません。
そんな体験を思い返していると、囲炉裏を囲んで集団移住を決めた"大平宿最後の日"に思いを馳せました。
大平宿はエネルギー需要の変化から次第に衰退し、昭和45年に住民の総意として集団移住を決意し約250年の歴史に幕を下ろした、とあります。
集団移住を決めた日。
おそらく囲炉裏を囲んで議論が交わされたに違いない。
他に道はないのか。そんな意見もあったかもしれません。何世代も住み慣れた地を離れる--それがどんなに辛く悲しいことか。
わずか1泊だけでしたが、楽しく過ごせた時間。
しかし、そのことに思いを馳せると少しだけもの悲しい気分になるのです。
Comments